2007年04月01日

危機管理情報~番外編 その1

さて、今回はちょっと視点を変えて、激変するかもしれない中長期的なスパンでの、極東情勢について書いてみたいと思います。
長いので何回かに分けて、掲載しますね。
まずは、緊迫する北朝鮮情勢についてです。


 近年、自衛隊は組織の変革が大きく進み、さまざまな新しい装備や訓練が導入され、非常に喜ばしい限りである。
しかし、これから自衛隊を取り巻く環境はあまり芳しいものではなさそうだ。
望んでいなくても、近い将来自衛隊には、大きな試練が待っていそうなのである。
今日は、切り口を変え視点を少し先に据えた極東情勢と自衛隊の活動についてリポートを書きたいと思う。


 さて、これから世界は米国がイラク戦争の泥沼から抜け出そうと必死に努力を行っているが、事態の好転は遠い先のように思われる。
米国のとるオプションとしては、段階的撤退・早期の全面撤退・NATOへの権限委譲・中東圏の軍による国連軍部隊の駐留要請等が戦後処理の手段として考えられるだろう。
 また、イランとの対話路線による核政策の緩和を条件に、革命防衛隊のイラク国内での活動を自粛させる事も視野に入れ、国務省筋が水面下で外交手段を駆使しているとの話もある。

 これら一連の米国の動きを受けて、スパンで物事を捉えるならば、周辺事態には大きな変化が待っていると私は思っている。
イラク戦争にかかる経費は、かなりの額に達し、戦費は米国の経済に少なからずダメージを残すであろう。
10数年後、日本を取り巻く環境はどうなっているのか?
また、日米安保はどう機能するのか。自衛隊はどのような活躍が求められるのだろう
現状を冷静に分析して、少し先の未来を予測しようと思う。


これから10年で極東情勢は大きく変化するであろう。
 まずは近場の朝鮮半島情勢から話を進めよう。時系列的にも優先すべき動向はこちらが先となる。
6カ国協議で、ひとまず息継ぎの出来た北朝鮮であるがこの体制が長く維持されるとは、ほとんどの人間が考えていないだろう。
しかし、多くの人が考えているような、米国その他の国による武力行使で、金正日体制を排除する可能性は殆ど無いと断言できる。
危機管理情報~番外編 その1
防衛白書より転載


なぜならば、犠牲が大きく得るものが少ないからだ。
現代においては資源や地勢的戦略要因、国際世論の動静を無視して戦争を行う事は、不可能となっている為である。
そして、北朝鮮は南北境界付近に多数の短距離弾道ミサイルを配置しており、一種の相互確証破壊の状態にあるのだ。
現在まで朝鮮戦争は休戦中であり、終戦はしていないといっても、
国連軍サイドも世代が変わり一般人や韓国経済に甚大な被害をもたらす、ミリタリーアクションを取ることは難しいだろう。
危機管理情報~番外編 その1
38度線 停戦ライン

では、逆に北朝鮮側から侵攻される。あるいは弾道ミサイルやテロによる攻撃を受けた場合はどうだろうか?
このケースも今となっては考えられない。
せっかくの6者協議でもらったご褒美をむざむざ溝に捨てる羽目になるからだ。
ミサイル発射の兆候でも判明したならば、支援は凍結され資金凍結の解除も絶望的になってしまう。
危機管理情報~番外編 その1

そして、北朝鮮首脳陣にも、イラクでのフセイン元大統領の処刑映像は多大な戦慄を与えただろう。
また、韓国(国連軍)側に攻められる弱み、言い換えれば北朝鮮が戦争に出た場合の正当性を国際社会にアピールできなければ、北朝鮮は領土を拡大しても、国際的な孤立はそのままである。
内部の政変やクーデターによる軍部の暴走も、電波傍受や脱北者からの情報により、速やかに国連軍ないし中国軍が展開して事態の収拾を図るだろう。この点については後述する。


しかし、この問題の怖い所は、いつそういった事態が発生するか予想が出来ない事だ。
明日かもしれないし10年後かもしれないのだ。第一次世界大戦がたった1発の銃弾から始まったように、北朝鮮の崩壊も突然やってくるかもしれない「今そこにある危機」なのだ。

このような書き方をすると、北朝鮮が崩壊しても日本には何の影響も無いのか?と考える人もいるだろう。
しかし、残念ながら重大な危機に直面する可能性が残っている。


難民問題と、国内勢力の動向さらには、北朝鮮国内にいる邦人の救出に対処する必要があるからだ。
順に書いて行こう。
まず、難民問題であるが、中朝国境と38度線付近には多数の難民が押し寄せる事は間違いない。
危機管理情報~番外編 その1
永らく極限状態で暮らしてきた人々は食料や医療を求めて国境付近に殺到する事が想定される。
即座に軍が国境を閉鎖し、北朝鮮国内で難民問題の収拾に対応できれば良いが、現実問題として1~2週間前後は支援に時間を要する。
その間に痺れを切らした一部の住民は、暴徒と化し略奪などに走る可能性は捨てきれない。
衛生上の問題も多く、伝染病や害虫といった問題にも直面する。
一部の難民は、漁船や貨物船を利用して国内にも流入する可能性がある。
万が一ここのような事態になれば、海上保安庁だけでなく海上警備行動の発令により海上自衛隊でも必要な措置が取られるだろう。


同時に、北朝鮮が崩壊した場合、直ちに政府は非常事態体制を敷き、勧告在住の邦人を救出する為に韓国国内へ統合指揮による邦人輸送誘導隊を展開させる事になり、空挺団や中央即応連隊(新設)誘導隊指定部隊などで構成されたタスクフォースが、空海から効率的に邦人を輸送する自衛隊初の大規模ミッションとなるだろう。
しかし、これまでに何度か邦人輸送訓練は行われており、スムーズな展開を願うばかりである。

 次に国内勢力の動静である。
北朝鮮の崩壊で怖いのは、その心理作用である。
近年メディアのグローバル化と、インターネットの普及で情報の伝達に時間の壁は無くなった。
しかし、その反作用として影響力の拡大や不正確な情報が一瞬にして伝播する危険も高くなってしまった。
その為、国内では不正確な情報がメディアに登場し、噂やデマが飛び交えば、周囲に対して猜疑心を持つようになる。
最悪の結果は、便乗犯や模倣犯によるコピー犯罪が発生した場合だ。
工作員の名をかたる愉快犯が発生し、その模倣犯が連鎖的に発生する事態は、確率の高い問題として覚えておくべきだろう。

これにより、朝鮮総連や朝鮮系の人間に対する迫害や暴行排斥運動が高まる事も予想される。
良識ある日本人であれば、関東大震災の悪夢をもう一度思い出し、これらの事態が発生しないように望みたい。

しかし、現実には最悪の状況を想定したとすれば、初の治安維持出動が発せられる可能性も否定は出来ない状況だ。


北朝鮮問題の最後は、邦人の救出任務である。
北朝鮮国内には、拉致被害者や日本人妻がいまだ多く生存しているだろう。
彼らを騒乱の続く北朝鮮国内から一刻も早く救出しなければならない。なぜなら、体制崩壊後の旧政権への処罰や弾劾を恐れて、処刑される可能性が高いからだ。
これは、表の邦人輸送任務とは異なり、裏の邦人救出作戦となる。
この任には、特殊作戦群が最適だろう。速やかに北朝鮮国内に侵入し、事前の証言や情報収集の結果を基に速やかな救出作戦を実施する。

また、一定の戦力を常駐させてハーツ&マインズ(民心獲得作戦)を展開し、現地での情報収集にあたる事でリアルタイム情報を統合幕僚本部に報告する事は、混乱する情勢にあって確かな情報源として貴重なものになるだろう。


さて、北朝鮮の崩壊による騒動はひとまずここで区切りたいと思う。
しかし、北朝鮮の崩壊と切り離しては語ることが出来ないのが、中国人民解放軍の動きである。
騒乱の引き金が、どのタイミングで、誰が引く事になっても北朝鮮の生命線を握ってきた中国は、崩壊後の北朝鮮に積極的に介入するだろう。
なぜ介入するか?動機はいくらでもある。
まず第一に、領土の拡大である。
やせ衰えている大地でも、極東情勢の戦略的観点から見ると、非常にメリットのある位置にあるからだ。
中国領となった北朝鮮が、太平洋側に突き出すという事は、当然ミサイルの射程も短くなり、潜水艦が太平洋へ出るのも容易になる。
危機管理情報~番外編 その1
では、これが日本に及ぼす影響はどれほどのものになるのか?
まず、米軍の戦略的な配置転換が行われる可能性が発生する。
やや、わかり難いかもしれないが、北朝鮮軍と交戦した場合に、韓国では在韓米軍の被害が大きすぎるとして、韓国から米軍が撤退した戦略的な配置転換が、仮想敵国を中国として在日米軍でも行われる可能性も絶対に無いとは、言い切れない。
(これには、米軍の中東シフトと機動展開能力の向上が関与しているが、被害軽減の意味合いも含まれている)
そうなれば、領土防衛の能力は初動対処能力その他において、大きく後退するのは確実であろう。
また、自国防衛に関するあらゆる能力を自衛隊のみで保有しなければならなくなり、国防における負担は大きく増大する。
日米安保が継続しても戦略的な能力の空白は、必ずに生じる事になるのでその穴埋めに必要な戦力の補強は必要不可欠となる。


仮想敵国としての中国が領土を拡大した場合、当然日本もそれなりの防御能力を保有しなければならなくなるが、これは日本の軍事力拡大を嫌う韓国や中国から、いつものように叩かれて新たな火種になる事は間違いないだろう。

中国が北朝鮮を実効支配した場合、中国の人件費も年々上昇する中、格安の労働者を容易に確保できる旨みもある。
また、鉱物資源が手付かずで眠っているとの情報もあり、混乱の収拾を名目として、実効支配に出る可能性も十分に考えられるだろう。

これが今の所想定される、北朝鮮崩壊による、中国の動向である。
これらの中国による脅威を未然に防ぐ意味でも、国連を主体とした暫定統治機構の速やかな立ち上げが望まれる。



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Posted by 柏木@中の人 at 23:22│Comments(0)危機管理情報
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