2007年04月03日

危機管理情報~番外編 その2

怒涛の更新を続けていますが、この記事が某所でボツになった物の切り貼りだと言うのは、秘密の方向で(笑)

さて、次に中国の動静を記述したいと思う。

 東シナ海でのガス田開発や、尖閣諸島の領有権問題、歴史認識問題と摩擦のタネには困らない日中関係であるが、軍事的な観点では、中長期的にはどうなるのであろうか?
ここでは、北朝鮮の崩壊の有無を無視して、純粋に対中国の情勢分析を行ってみたい。
危機管理情報~番外編 その2
中国は現在、共産主義体制による市場開放路線をとり概ね順調に成長している。
これは、北京オリンピックと上海万博による都市部でのインフラ整備と、安い人件費を背景にした産業の発展が大きく寄与している。

 しかし、2007年2月~3月にかけて発生した、中国株式市場の暴落によるショックは世界を駆け巡った。
地価の上昇や経済推移は、一時期の日本のバブル経済を連想させ投資専門家の間では、上海バブルと呼ばれ、株価の下落に警戒している状況だ。

 中国が万が一株価の下落による経済的ダメージを負うと、軍事的な観点からはどのような混乱が生じるのか?

まずは、情勢不安が段階的に発生すると予想される。
地価や生産に著しいダメージを被ると、企業は組織の保護・維持の為に人件費のカットに踏み切る。
これらは日本国内でもリストラの嵐が吹き荒れた時代、記憶に新しいと思う。しかし、中国では日本のように社会保障制度や雇用の安定確保といった法的インフラはいまだ整備されておらず、失業率が大きく増大する事になるだろう。

 そうなれば政情は不安定となり、責任追及の声は中央政府に向くだろう。都市部での暴動やデモ行進に発展する事は想像に難しくない。
危機管理情報~番外編 その2
 これに地方農村部の政情不安が重なれば、大規模な軍を動員した治安作戦が展開される恐れもある。
 経済格差を背景にした「第2の天安門事件」が発生する可能性は、否定できない。そうなれば当時とは違いインターネットや衛星通信の発達によって情報の封じ込めが難しくなり、民主化への国際的な圧力は高まると予想され、現政権は難しい舵取りを迫られるだろう。

 また、地方都市部で紛争が発生する可能性もある。そうした場合安保理常任理事国である中国は、拒否権の発動が頻繁に行われて、国際社会での信用が大きく失墜する事も十分想定される。
そうなれば、市場の中国離れが大きく進み、経済は冷え切ってしまうだろう。


 経済的発展が停止した場合、一番被害を被る国はどこかといえば、メコンデルタ地域の東南アジア諸国とアフリカ地域の国々である。
現在、中国はメコンデルタ地域を積極的に開発し、海運の一大拠点を構築しようと各国と協調して取り組んでいる。これらの国々は大きなダメージを受けて、新たな火種に発展する恐れもある。

 同様に、中国が資源外交を展開していたアフリカ諸国も原油やその他の経済援助が打ち切られた場合、国家としての体力が低ければ内戦や周辺諸国との紛争も発生する危険をはらんでいる。

 では、どのタイミングで経済活動の低下による情勢不安が生じるかとの問題であるが、上海万博後に物価の上昇が停滞したタイミングが開始のサインであると私は分析している。
上記の事象は唐突に起こるものではなく、以下の理由から5年から10年程度のスパンで発生すると思われる。

 その根拠としては、上海万博後に目新しいインフラの整備につながる発展的要因が見当たらない事と、輸送コスト等を考えて大都市圏の一定の範囲に労働者確保を依存している現状では、生産コストの抑制に物理的な限界があると思われる為である。

 中国の発展を支えているインフラ整備と生産業の発展だが、インフラの整備は北京オリンピックと上海万博を目標に開発が進んでいる。
危機管理情報~番外編 その2
日本は高度経済成長からバブルへ突入したが、中国はバブルと高度経済成長が同時に進行している。
 開発の目標である2大イベントが終了したならば、地価や建設業界には逆風が吹き込む可能性がある。しかし、地価の下落は異常に高騰していたものが適正な価格に戻るだけであり、中国経済全体からするとそれほど大きなダメージにはならないだろう。
だが、建設業に従事している人間の雇用は失われる事は確かで、景気の伸びは勢いを失う事だろう。

 次に、物価の上昇に伴う人件費の増大である。
人件費が増大すれば、労働者が管理職となり次の労働者を地方から呼び寄せる。また人件費が増大すれば管理職は独立し、労働者が管理職となるそして、労働者がまた地方から流入するといった繰り返しで、中国の生産は人件費の維持・規模の拡大を続けている。

 しかし輸送インフラを考慮すると、生産プラントは大都市圏や沿岸沿いにどうしても集中せざるを得ない。すると立地や労働力の供給に物理的な限界が発生してくる。
こうなると、人件費の抑制が効かなくなり、産業界では統廃合による経営の合理化が進められるだろう。

 一部の企業は、労働力を求めて内陸へ移動するだろうが、輸送コストや生産環境を考慮すれば、暫くは限定的な進出にとどまるだろう。
こうなった場合、経済問題が深刻化し情勢不安につながる恐れも考えられる。



 中国の軍事的な情勢で気になるといえば、日本の周辺事態にも認定される台湾への武力侵攻であろう。
しかし、これらは常に台湾と米国の情報収集によって効果的に封じ込められている。通常武力を用いて他国に侵攻する場合は、2~3ヶ月前から軍事的な兆候が見られるようになる。
例を挙げるならば、武器弾薬の生産配備や輸送、物資の輸送と集積、部隊や車両の移動と配置及びそれに伴う部隊間の通信増大等である。
危機管理情報~番外編 その2
 アメリカと台湾は、効果的な情報網を構築しておりこれらの兆候があった場合即座に両軍が動く体制が整っており、たとえそれが人民解放軍の演習であったとしても米軍が空母を配置して戦略的なプレッシャーを高めたりと、簡単には武力侵攻が出来ない抑止力を備えている。

 しかし、今後中国の軍備拡張が順調に推移した場合、抑止力の均衡が崩れ、軍事紛争に発展するケースが無い訳ではない。
 現在中国は、ロシアから原子力潜水艦をまとまって調達する予定があり、その運用が開始されると制海権が中国に移行し均衡が崩れる危険がある。

 同時に国産空母の建造計画を進めており、潜水艦と空母を同時に運用した場合、一気に台湾周辺の軍事的緊張が高まると予想される。
経済が堅調な現在、無理な軍事計画は国際世論の反感を買ってしまい、経済に影響を及ぼす恐れがある為先制的な武力介入は、可能性は低いと思われるが、偶発的な行為が戦闘を誘発する危険性は依然として高いといえる。

 偶発的な事例として、最も確率の高いものが潜水艦の捕捉や拿捕だろう。
先ごろの日本領海の潜水艦による侵犯事案が記憶に新しいと思うが、そのような事が台湾領海近くで発生すれば、正当性を主張する両国が武力紛争に発展する危険性を十分にはらんでいる。

もし、潜水艦を発端として武力紛争が発生した場合、お互いの言い分としてはこうなるだろう・・・
中国 「わが国の潜水艦に対して、敵対行為を行った事は許し難い挑発的行為である」
台湾 「自国防衛に対する正当な行為であり、なんら問題は無い」

そして、潜水艦のスペックを調べる為に台米が中心となって、徹底的な分析を行う筈でありそうなれば、潜水艦の引渡しや乗組員の解放は長引くだろう。そして、長引いた分だけ軍事的緊張が高まり、結果中国の武力介入といった事態も想定される。

さて、台中武力紛争事態が発生した場合、自衛隊はどのような行動をとり、国民にどの様な影響があるのかを検討したい。
対北朝鮮政策でも触れたが、まずは軍事的な緊張状態が高まっていると判断された場合、外務省が中心となって在留邦人の避難勧告が出されるだろう。
この時点で、両国にいる在外邦人は半数以上が脱出できると判断される。
つまり、段階的な脱出が図られるので、最終的な武力衝突事態に発展した場合は最小限の邦人輸送で済むと考えられる。

次の段階として、本格的な武力衝突事態に発展した場合である。
周辺事態法によって後方支援活動が明記されている。

後方支援活動とは補給や医療・救助といった事がメインで、直接的に戦闘には参加しない事になっている。
武力による反撃が認められているのは、正当防衛時のみとなっているが、イラク戦争の例を見てもわかるように何らかの時限立法により、自衛隊の活動領域が拡大する可能性は否定できない。

また、中国が日本をどの様な位置づけで見るかが焦点となってくる。
同盟国の一員として台湾と同一視され、攻撃の対象となった場合、北朝鮮の比ではない精度と頻度でのミサイル攻撃に晒される危険性がある。

 しかし、極端な戦域の拡大は中国も望まないと思われ、直接武力攻撃に日本が参加しない限りは、輸出入の制限や入国禁止措置など産業・外交ルートでの圧力で留まると思われる。
同時に間接的な交渉チャンネルとして、日本ほど都合のいい国は無いという見方も出来る。



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Posted by 柏木@中の人 at 00:07│Comments(0)危機管理情報
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